最近、金融業界の候補者とお話しするなかで、海外勤務を希望する方が少なくないことを実感しています。自身のキャリアの可能性を広げたい、異なる文化や環境で経験を積みたい、あるいはお子さんの教育を考えて海外で生活したいなど、その理由はさまざまです。
かつて海外勤務は、語学力を高め、グローバルな経験を積むためのキャリア形成の一環でした。金融業界でも、海外拠点へのローテーションや研修、社費によるMBA留学などを通じて、社員に国際経験を積ませる企業がありました。
しかし、円安や日本市場の相対的な位置づけの変化などを背景に、海外勤務の機会は以前と比べて限られつつあります。一方で、海外勤務への関心が薄れているわけではありません。もちろん、地政学リスクや生活環境への懸念から、日本でのキャリアを望む方もいます。海外勤務は、誰にとっても望ましい選択肢というわけではないのです。
では、AIが急速に進化する時代において、海外勤務にはどのような価値があるのでしょうか。
重要なのは、単に海外で働いたという経歴ではなく、異なる市場や企業文化のなかで何を成し遂げ、どのような専門性を身につけたかという点です。AIによって情報収集、翻訳、資料作成、データ分析などが効率化される一方、投資判断、リスク管理、顧客との信頼関係の構築、複雑な利害調整といった領域では、専門知識や経験に基づく判断力が引き続き重要になります。海外勤務は、こうした能力を異なる環境で磨く機会になり得ます。
特に注目したいのが、シンガポールや香港などの金融拠点におけるJapan Deskです。ウェルスマネジメント、日本株運用、機関投資家営業、ファンドレイズ、クロスボーダーM&Aなど、日本市場と海外市場をつなぐ業務には、日本企業や日本人顧客への理解と、国際的な金融実務の双方が求められます。
AIによって言語の壁が低くなれば、単に日本語と英語をつなぐだけの役割は、相対的に差別化が難しくなるでしょう。一方、日本市場への深い理解、顧客基盤、投資実績、収益を生み出す営業力を備えた人材には、引き続き活躍の機会があると考えます。海外企業が日本人を採用する理由は、国籍や語学力そのものではなく、その人材ならではの付加価値にあるからです。
こうした変化は、私自身のヘッドハンターとしての仕事にも、新たな可能性をもたらすと考えています。日本国内のポジションに関する採用支援は、今後も変わらず大切にしていきます。その一方で、これからは海外の採用案件の開拓にも、より積極的に取り組んでいきたいと考えています。
具体的には、海外金融機関のJapan Deskや、日本市場との接点を持つ海外企業、さらには海外進出を進める日本企業など、日本と海外の双方に関わるポジションに注目しています。日本国内で培った専門性を海外で生かしたい方と、優秀な日本人プロフェッショナルを求める海外企業。その双方をつなぐことで、これまで国内に限られていたキャリアの選択肢を広げるお手伝いができればと思っています。
そのためには、求人を紹介するだけでなく、候補者の専門性が海外市場でどのように評価されるのか、採用企業にどのような価値をもたらせるのかを見極めることが重要です。同時に、海外の企業や採用責任者とのネットワークを構築し、国や地域を越えた人材ニーズを継続的に把握していく必要もあります。
海外勤務はキャリアのゴールではなく、その後の選択肢を広げるための手段です。現地でキャリアを築き続けるのか、日本に戻って国際経験を生かすのか、あるいは第三国へ活躍の場を広げるのか。長期的な視点でキャリアを考えることが、これまで以上に重要になるでしょう。
私自身、今後、海外で活躍する日本人プロフェッショナルへの需要は、特定の分野で伸びる可能性があると考えています。ただし、すべての日本人に機会が広がるという意味ではありません。専門性、実績、適応力、そして異なる市場をつなぐ力を備えた人材ほど、その価値を発揮しやすくなるはずです。
AI時代において、海外勤務の価値を決めるのは、どこで働いたかではなく、そこで何を実現し、どのような競争力を獲得したか。そして、ヘッドハンターとして私が目指したいのは、国内外の人材市場をつなぎ、一人ひとりの専門性と企業のニーズが国境を越えて結びつく機会を創出することです。
日本国内の採用支援を軸としながら、海外案件の開拓にも力を入れ、日本と海外の双方に新たな可能性を生み出していきたいと考えています。